新ビジネス創造

地域活性化のモデル企業をつくる
~県と企業が手を組み、相互に学び実践するイノベーション

広島県発のチームイノベーション道場は、1社の成功事例についてだけ学ぶのではなく、参加企業が互いに学び合い、それぞれの企業のイノベーションを意図して実践に導く連合体として発展しています。
県と参加企業、または参加企業どうしが切磋琢磨しながら他社にアドバイスをする、これがシナジーを生み出し、さまざまなイノベーションの種を生み続けています。
なかでも株式会社岩瀬商店は「卸売から小売」に事業転換し、地域課題の解決にまで自社の技能を生かしている、地域活性化企業のモデルケース。
今回はその岩瀬商店とチームイノベーション道場広島の取り組みについてお話します。

広島県商工労働局

イノベーション推進チーム 参事:梅田宏行
岩瀬商店株式会社 代表取締役:岩瀬茂輝

■事例を一言で言うと
広島県の職員が渾身の思いを込めて環境をつくり、地域の企業がこの機会を活用して自社の危機突破にチャレンジする。地域活性化を成し遂げるコラボレーションがここにあり!という事例です。

■地域が抱えている課題
県の人口279万人が、40年後には40万人減少する。市場経済が減退することを見込み、サービス産業の労働生産性を高める必要性があった。県ではこれまでも幾多の中小企業支援策に先進的に取り組んできている。しかし、どれもその場限りで終わっていて、持続する企業力を培うまでできていないのではないか?イノベーションを起こす社員を大切にしきれていないのではないか?産業支援担当をしてきた梅田氏には、そんな悔しい思いが溢れていた。
一方、福山市にある岩瀬商店は、創業105年の歴史を誇る小さな染料屋。国内の染料メーカーは、30年前から海外に押され、中抜きされて危機に瀕している。代表取締役岩瀬茂輝氏は、ずっとこの仕事がなくなるのではないかと危機感を抱いていた。そこで、「なんでも染める!」ぶち採ろう!!とチャレンジを始めた。しかし、「社長にはついていけない」と言われ、20人以上の社員が、奥さん以外みんな辞めた。おまけに新型コロナ。このままでは、一瞬にして会社が成り立たなくなってしまう。スタッフ一丸となって事業転換するしかない!、そう痛感した。
岩瀬氏の危機感がなお高まった折、梅田さんが、新しく企画した県の取組みを案内するちらしを持ってきた。

■起死回生の取組みと成功ポイント
広島県が取り組む「チームイノベーション道場 in 広島」、TIES(チームイノベーション アンド エンパワーメント スクール)。
「TIESは、人と人とのつながり、組織と組織の結び目、結節点、「紐帯(しゅうたい)」を意味している。結びつきの弱いつながりほど、新たなイノベーションが生まれやすいからだ。
参加者には、いろんな年代、多様性のある人たちがいて、「多様性」や「寛容性」を受け入れた協働作業の中で、「失敗への耐性」と「学習する態度」を涵養し、個人と組織の「チャレンジ精神」や「発見力」を醸成する「学び」の場となっている。
オフサイトミーティングなどによりコミュニケーションを活性化し、チームワークの向上しながら、この場から新しいプロジェクトの創出等の成果を出している。
異色な講師を結びつけていることに特徴があり、サービス産業の生産性を学習し続ける組織づくりを目指す。HPは、参加者が自主的に作成している。

1.社長だけでなく、スタッフも一緒に参加する。(
  →岩瀬氏にとって、奥さんと参加できたことがとても魅力的だった。「奥さんが変わって来た」と言われる。それが一番の自分への誉め言葉。

2.オフサイトミーティグ(肩書を外して、気軽にビジネスを語る)の場で、ざっくばらんに話ができるようになる。そこから、企業内でも、コミュニケーションできるようになって来る。
→岩瀬氏にとって、社内でのコミュニケーション不足に問題があった。
その自分自身の「伝え方」が変わった。それまでは、機能面でしか語っていなかった。相手の感情をおもんばかった伝え方ができていなかった。感情面を加えることで、面積が変わる。
社内に相談相手ができた。相談相手が、0人だったが、2.5人になった。
社長は孤独と言われる、が、その実感がなくなってきている。

3.「討議」と「対話」を組み合せて、生産性向上に結び付くイノベーションを創出する。
→小売りがコロナ禍でも売上アップしている。卸6割、小売4割あったので、仕事内容を変えねばと思った。そこで、社員みんなで「コンティジョン」の映画をみんなで密になって見た。
危機感を共有したら、じゃあ、どうするかと考えるようになった。商品数を800点から2万点に増やそうということになった。卸売りを4割に減らし、小売りを6割に増やした。TIESで学んだことがあったから、考えられた。

4.セミナー参加者は、お互いに徹底的に自己開示できる関係をつくり、「強い企業の連合体」をつくっている。
→岩瀬さんにとって、ジブンガタリ、武器ガタリなどやっていると、社外にも相談相手がいっぱいできた。他社の大変さに勇気づけられた。

5.⑤ 失敗からも学べるチームになっている。
→染め紋屋から、ボーダレスに事業拡大していった。「染の360度戦略」と名付けている。卸から小売りに変えるのは、非常に大変なこと。しかし、当たり前にプロジェクトやるようになった。スタッフ自身が考えながら、「TIEDYE MUSEUM」始めた。自分たちでやるように変わっている。
絶対やりっぱなしにしない。何が悪かったのか、ちゃんとふり返って、何が悪かったのか、失敗してもただで終わらせない、みんなでより成功に近づく事業に考えていくことが大事。

アンケートにお寄せ頂いた声(一部)

  • 社長の崖っぷちから新しいチャレンジをどんどん実行するところ、周りがついてこれず周りも自分も疲弊していたところが共感したところです。
  • 今回、県庁が中心になり現状と将来を危惧して地元企業を集め活動の「場」を作ることができたことに衝撃を受けました。その辺のご苦労をもっと伺いたかったです。
  • 行政が自分から変われる会社を作るというしっかりしたコンセプトを持ち、実施したという成果だけでなく、将来を見据えた会社を変える取組みを行っていることに感動した。