終末期医療フロンティア

終末期在宅医療の常識へのチャレンジ~コロナ禍においても、その状況を乗越えるのは、自分たちの存在意義を問い直し続けること

開業当初から自分達の存在意義を問い直し、看護師中心の在宅医療を実現することで、終末期の在宅医療の世界を変えていくことを目指している。コロナ禍においても理念が医療や地域の枠組みをこえて、その活動の輪が拡がっている理由とは?

医療法人綾正会 かわべクリニック

看護師 川邉 綾⾹、院⻑ 川邉 正和
株式会社ADKマーケティング・ソリューションズ
ダーザインブランディングプロジェクト
プランニングディレクター 古村 徹也

「看護師中心の在宅訪問診療」、この言葉を聞いて皆さんはどのようなイメージを持ちますか?

今回ご紹介するかわべクリニックさんは平成27年に東大阪市で開業した在宅訪問診療、その中でも緩和ケアを主としたクリニックです。在宅訪問診療とはガンや難病などにより、通院が難しくなった患者さんの自宅に医師や看護師が訪問して診療することです。


今回は開業時から現在のコロナ禍でも、いかに看護師中心の在宅訪問診療を中心として、その思いを実現してきたのかをご紹介します。

在宅診療訪問の背景として、在宅訪問診療制度は認知度が低く、自宅で最後まで過ごしたくても過ごせないといった現状があります。厚生労働省の調査によれば、「自宅で療養して、必要になれば医療機関等を利用し、最後まで過ごしたい」と回答した割合は約60%ですが、そのうち約15%しか自宅で過ごせないという結果が出ています。

このような状況から、川邉さんはクリニックを開業する上で「在宅訪問診療制度の認知度が低く、自宅で闘病している患者さんが在宅医の存在を知らない」ということに最も大きな不安がありました。

つまり、自分達が在宅訪問診療を運営できるかという視点ではなく、患者さんや家族に在宅訪問診療制度をより知ってもらうためにはという視点で課題を捉えていました。

そのような課題を持っていたため、川邉さんはスコラ・コンサルトの辰巳さんに「自分達が診療するだけではなく、より制度自体を知ってもらいたい。また、自分達のクリニックだけではなく、仲間を集めて、地域でより広く活動していきたい」と相談しました。相談を通じて、『ダーザインブランディング』というサービスが適切だという結論に至りました。
『ダーザインブランディング』とはスコラ・コンサルトとADKが作った「社員が何がしたいかという思いを言語化し、それを会社が目指すことや存在意義とつなげて、社会にとっての意味を形にする」という社員と会社と社会が一気通貫でつながるようにブランド化するサービスのことです。

川邉さんは『ダーザインブランディング』の中でオフサイトミーティングを通じて、「在宅医療が実現すると私達や患者さんにどんないいことがあるか?」「自分達の在宅医療は今までのものと比べて、なぜ本質的だと思うか?」等言語化できなかった思いや考えが引き出され、存在意義を問い直していきました。
その結果、「看護師中心のフラットなチームによる終末医療サービス」が最もやりたいという思いを明確にしました。川邉さんがそのように考えた理由は、在宅診療では医師よりも看護師の方が患者さんの自宅に訪問し、介護士よりも看護師の方が自宅で医療や看護をしており、看護師は医療と介護の両方ができる唯一の存在だと気づいたからです。
また、看護師は病院側の看護師や主治医等に患者さんが転院された後、どのように過ごしていたのかを伝える看取りの報告書や、看取り後49日と1年が経過した頃に家族や友人の悲しみに寄り添い、つながりを大切にしたいという思いを伝えるグリーフカードを作成しています。
ただ、「看護師中心のフラットなチームを作る」だけでは川邉さんの思いは実現しません。思いが実現するためには終末医療サービスに関する制度や自分達の思いを伝える必要がありました。そのため、ホームページやブログで制度や思いを発信しています。その一例として、ホームページのスタッフ紹介の順番は看護師の方が医師より先に紹介しています。
自分達で作った言葉が仕事の判断基準になるだけでなく、地域に発信することで、大きな成果が出ています。例えば、ホームページやブログを見た患者さんの家族からの問い合わせが増え、理念に共感した人からの面接希望も増えました。また、メディアからの取材も増えています。
さらに川邉さんは1つのクリニックでできることは限られていると考えていたため、「東大阪プロジェクト」を起ち上げました。「東大阪プロジェクト」とは地域包括ケアシステムといって、最後まで地域で穏やかに過ごすため、看護師や多くの職種が関わり、在宅緩和ケアチームを作っていく活動です。川邉さんは10年計画で取り組んでいて、今5年が経過しました。この後の5年は東大阪プロジェクトを確実に形にして、川邉さんしかできないのではなく、誰にでもできる社会にすることをゴールにしています。
かわべクリニックさんは年間約70名を看取っていますが、現在はコロナ禍で病院や施設では最後会えない影響もあり、2020年は約80名を看取る予定です。
最後に「今年ほど最後人と人が会えないことがこんなにもつらいと感じた1年はなく、ここを乗り越えていかないといけない」というお話が印象的でした。『ダーザインブランディング』によって、軸や理念が明確になり、多くの人に伝える技術や機会が得られたことで、理念が医療という枠組みをこえて、その活動の輪が拡がっています。

アンケートにお寄せ頂いた声(一部)

  • 川邉先生の取り組みや志はまったく違う業態であり客先の私の意識の根幹が揺らぐ衝撃でした。また医師ならではのSOAPなどの手法も、ヒアリング全般に共通しているうえ、事後の在り方も考えさせられる非常に濃い内容でした。
  • 終末期の患者さんを在宅で医療を施すという今までの常識では考えられないことを、患者さんの為、その家族の為にベストな時間を過ごしてもらうというコンセプトで、必死になって対応してこられた奮闘記には涙が出ました。 心から、目指された社会的意義の高さに感動しました。
  • 純粋にすごいって感じました。本当に自分たちがやりたいこと。それが、組織の目的、社会の目的とつながっており、川辺さんの人生の目的が凝縮していました。一方、自分のことを振り返ってみて、本当の私がなしえたい目的は何なんだろう?今一度立ち止まって、問い直してみたいと感じた次第です。