ホテル菊乃家

旅館・菊乃家の挑戦「一人二役、三役で宮島を持ち上げる存在に」

宮島を盛り上げられる存在をめざす。菊乃家では旅館の枠を超え、抹茶教室、書道教室などのさまざまなサービスを展開している。今でこそ“一人二役で何でもトライ”が当たり前になったが、それぞれの立場から抜け出せない時期も長かった。本セッションでは、立場を超えて意見が飛び交うような職場をどのようにしてつくり込んでいったのか、苦労談も含めてお話しします。

ホテル菊乃家

代表取締役社長: 菊川 泰嗣

2011年、世界遺産の厳島神社がある宮島に開業した小さなホテル。2014年、素人同然の菊川泰嗣社長が事業承継で代表になったのは、こともあろうにゴールデンウィーク直前、全従業員から退職願いが出ていた最悪のタイミングだった。前体制の余波と社員の総入れ替えで売上もサービスも低迷し、JTBのパンフレット掲載からもはずされた。
その4年後、菊乃家は、楽天トラベルアワード旅館部門、JTB宿泊アンケートサービス部門でいずれも広島県第一位に輝いた。その結果に対して、社員は一様に「なんでうちが?」と驚いた。

菊乃家が4年間にやったことは、1.生産性向上のためのIT導入 2.「何を大事にするのか」自分たちの判断基準を決めるクレドづくり、3.他にないホテルの強みを探り、それを徹底的に磨く、こと。そして、特筆すべき点は「それをどのようなプロセスでやるか」に関する考え方、進め方にある。

菊川社長はマニュアルが大嫌い。業務標準は必要だが、接客や業務をすべてマニュアルで規定して、それが判断基準になると「誰も考えなくなって仕事ができなくなる」と言う。社員の主体性を大事にするなら「社長が判断基準」になってもだめ、というわけで、みんなで意見を出し合って「クレド」をつくった。

といっても、ホテルのスタッフは年齢もまちまちでパートの人や外国人もいる。料理長にしても清掃スタッフにしても、決められた職種の仕事をするのが当たり前と思って働いている。そういうメンバーが一同に会し、自分の意見を言う、一緒に考えるミーティングをするというだけでも戸惑い、苦手意識で拒否反応が出る。社長が事を進める上では、まず「みんなで話し合えるようになる」「自分も意見やアイデアを出す」こと自体が大きな壁だった。

スタッフが苦手意識や常識の殻を破るためのアイデアはスタッフから出た。みんなをオフサイトミーティングに誘うため、言葉では人を動かせないと感じた営業部長は「こんな話し合いだよ」という紙芝居をつくり、支配人と一緒に芝居をして楽しませながら伝えた。

通常、ホテルの仕事は分業体制(マネジャー、宿泊、フロント、調理、宴会、清掃…)が常識だが、菊乃家では、全員のアイデアで他にはない魅力づくりや新しい試みをするため、それぞれが自分で見つけた役割を二役、三役と増やしていった。茶道、書道、折り紙の教室、ミニ縁日、体験して集めた宮島のオリジナルガイドブックの配布。これが今では、メインの商店街から少し離れたホテルの立地する小路に客足を呼び込む名物になっている。アクティビティを目当てに宮島にやってくる旅行者も出てきた。

菊乃家は、ホテルの標準的な評価項目のレベルを上げるよりも、宮島という地域を盛り上げること、来島者が我が家のように過ごせる場所になることをめざしている。「何をすればそうなるのか」答えはないから、考え、話し合い、外に出て体験し、コツコツと小さな工夫や改善を積み重ねている。そうした内側からの小さな変化の連鎖が膨らんだ結果、期せずして、受賞という外からの大きな変化がやってきた。地味に見えるが、顧客密着、地域密着を地で行く取り組みはこんな姿をしているのかもしれない。

アンケートにお寄せ頂いた声(一部)

  • 自社だけの成長ではなく、地域の成長を考えている。
  • 経営危機を乗りこえ、社員の方が強みをいかして働いてらっしゃる話が印象的だった。菊乃家さんのような素敵な旅館があることを知れてよかった。ぜひ宿泊して、社員の方の働き方を現地で見てみたい。
  • これまでよく事例にあがるような強いスポンサーシップがある社長というわけではなく、とても従業員の想いをうけとめるような雰囲気の菊川社長が OSM(オフサイトミーティング)を進めているのが印象的だった。
  • オフサイトミーティングを通して、従業員の一体感、及び自分たちの「自慢できる会社」意識が醸成されているのがみえてきます。様々なアイデア、企画を実現され、お客様が喜ばれる姿が創造出来、感動しました。