人事の事業経営支援

採用だけじゃよくならない!HRBP(ヒューマンリソース・ビジネスパートナー)が伴走する事業部の一体感づくり

経営方針の大転換および非常にチャレンジングな業績目標の達成に、人事はどう関わることができるのか?事業部長から単発の研修の相談を受けた人事チームが、事業部長の“経営パートナー”となり、ともに経営課題実現を進めるHRBPになるべく、さまざまな努力や工夫をしてきた1年間を振り返ります。

合同会社DMM.com

組織管理本部人事部BPグループ GAMESチーム 小野拓馬

ゲームや動画配信を中心に約40の多事業(会社)を展開するDMM.com会社は、ビジネスのアイデアを事業化するのも撤退の判断をするのも早く、つねに事業を新陳代謝させて成長してきた。人事も2年前から事業部支援に軸足を移し、「稼いでくれる事業部門の成果に貢献する:HRBP」を役割にして動いている。

経営ニーズとともに変わる人事の役割

「採用重視」の5年間で社員数が5倍になり、大量採用にひと区切りをつけた同社では、カルチャーやバックボーンの異なる社員を抱えて大きくなった事業部の組織運営、会社・本部の方針共有や人材育成などがマネジメントの新たな課題になってきた。経営が人事に求める役割も「採用」から「事業部支援」へと変わっていく。小野さんが入社した時期は、そんな人事の転換期だった。

人事がやりたいことをやるのではなく、「事業部に寄り添う人事」にしないと会社は食わせてくれない。上司もそんな強い危機感と目的意識を持って変わろうとしていた。「HRBP」という新たな役割の概念は、経営のニーズに応える存在であろうとする人事の中から生まれてきた。

【HRBPの定義】
・人事面から事業の課題を解決する
・成果(売上等)に貢献する
(事業や組織の根っこには「人」があり、人を力点にして成果が生まれる。人に関わるHRBPは「人=力点」を大きくすることに寄与できる。)

「HRBPとは何をするのか」、動きながら見つけていく

事業部の困りごとに寄り添いながら解決を支援する、といっても最初は何をすればいいのかわからなかったという小野さん。「新任の管理職に対して研修をしてほしい」というゲーム事業の本部長からのオーダーに対し、依頼どおりに研修を「受ける」のではなく、まったく別のアプローチを試みた。

それまで事業部には外側からしか関わったことがない小野さんだったが、漠然と「オーダー通りの研修をしても部分の改善にしかならないのではないか」と感じていた。そもそも本部長が本当に困っていることは何か、メンバーは何をどう感じているのかは内側に潜り込んでみないとわからない。真に解決すべき課題を見つけるために、まず依頼の背景や実態を探らせてもらおうと考えた。

【研修依頼に対して実際にやったこと】
・対象者(新任管理職)に対するヒアリング
・本部長に対するヒアリング
 →マネジメント層に対するインプット
 →本部方針を双方向的に伝える場づくり(=オフサイトミーティング)

個別にじっくり話を聞いてみると、「実際に何が起こっているのか」「それぞれが何に困っているのか」が見えてきた。

本部長は「事業の成長」と「顧客価値の提供」に強い思いを持ち、メンバーには個々の強みを生かして仕事で自己実現してほしいと本気で思っている。そういう思いのもとに、飛躍的な売上をめざす本部方針を熱く伝えているつもりだった。しかし、ミドルマネジャーに話を聞いてみると多くの人が「わかりにくい」と感じ、示された数字ばかりが頭に残って、真意がちゃんと伝わっていないことがわかった。

たとえばエンジニアであるマネジャーは、本部長がしばしば引用する心理学の理論や用語自体になじみがないため、話の意味や意図を察することができないまま聞き流すということが起こっていた。

小野さんはこのギャップを埋めるため、まず本部長には「伝わっていない」という事実に気づいてもらい、その上で、ミドルマネジャーと本部長が相互理解のもとに本部方針を共有するためのオフサイトミーティングを行なった。

結果として、人柄も含め、本部長に対するみんなの理解は以前よりは深まり、こうあってほしい、こうなりたいという本部長の言葉の背景や真意は伝わったのではないか、と小野さんは感じている。

このような事業部支援のプロセスと、もともとHRBPとしてやりたかったことを照らしてみて、小野さんはどんなことを感じたのだろうか。

■事業部のふところに潜り込んでみて気づいたこと

・ミドルマネジャーほぼ全員にヒアリングし、100人近く1on1をやった結果、事業部からの依頼については、内部の人のことがわからないと効果的な提案はできないと実感。

・事業部の支援は、一緒に協力してやることが大事。

・「本当の課題は何か」と考え、「研修をやってほしい」という依頼を鵜吞みにしなくてよかった。見えている現象に対して言われたとおりにやるのではなく、本当に困っていることは何かを知ることが出発点。

・組織の課題は、大半は「話せていない(伝わっていない)」ところからきている。

■1年間やってみて、うれしかったこと

・ゲーム開発組織(600人)と企画部署(200人)の統合のタイミングで、本部長が「伝える場」として人事にオフサイトミーティングの相談をしてくれたこと。事業部長の管轄が広がって、人事がやることも広がった。

■今後の課題

・価値観や文化、バックグラウンドの異なるメンバーが集まる組織でマネジメントは難しくなっている。これまで我流でマネジメントをしてきたミドルマネジャーに対する教育や支援などは継続的な課題。

・他の事業本部への展開など全社的な支援はこれから。トップからメンバーまで「血の通った組織」をめざす。

■自分の成長課題

・まだ会社全体に影響を及ぼすような「成果」は出ていない。それを生み出したい。

・影響範囲が広くなるほどステークホルダーも増えてくる。そこの壁をぶち抜ける力をつけるのは、まだこれから。

・自分が「おもしろい!」と思える仕事をしたい。そして、それを意味のあるものにしたい。

■HRBPの面白さ

・外科的アプローチ(~してほしいに対処する)ではなく、内科的アプローチ(何かありませんかと聞き、課題を探る)で、組織・人と対峙できる。

・人を動かせるHRBPの役割・仕事は、風が吹けば桶屋が儲かるの「風」になれるかもしれない面白さがある。

アンケートにお寄せ頂いた声(一部)

  • 事業部に寄り添う人事という発想が自社になかったので、新たな発見でした