企業経営の重要課題

<改革実践者向け>調整文化の実態の捉え方 ~悪しき習慣を自覚する、当事者となって変える

ダイナミック・ケイパビリティとは、不確実な未来、環境の変化に対応するために自己変革していくこれからの企業に必須の能力。ニューノーマルといわれるこれからの時代に、日本企業が競争優位性を持ち続けるための課題は何か。ダイナミック・ケイパビリティを高めるための方法論としての、ダイナミックOD(組織開発)の可能性について、それぞれのトップランナーが語ります。

株式会社スコラ・コンサルト

プロセスデザイナー代表 柴田 昌治

7つの問いに対して柴田昌治が答える形で進みました。

問1:「調整文化」という言葉が表すものの、本質はなんでしょうか?

日本の伝統である武士道に由来すると考えています。武士というと戦うイメージがありますが、江戸時代の武士は管理をする人たちでした。武士たちが強固な文化をつくり上げていったから江戸時代が長い安定の時代になったのだろうと考えます。主君に対する忠義があり、忠義に基づいた格式を徹底的に守り切るという文化です。これは個性のある日本の文化なのですが、そこから序列意識が醸成されていったことが日本の労働市場における男女格差の問題がいつまでもなくならない原因になっているのだと思います。年功序列がなくならないのも同じです。
一方で、現地現物、事実実態に基づく挑戦文化が調整文化の土台の上に築かれていったことで強い力を発揮してきたのが日本の行動経済成長期です。さらに、日本人の強みである「共感力」が非常に強い連携をもたらしたのです。ただ、挑戦文化がしぼみ、調整文化が悪く作用すると共感力は「同調圧力」という逆の効果を生みます。調整文化自体は病理現象ではなく日本の固有の文化です。世界でもまれに見る、規律正しい民族になったのはこの文化のおかげです。昔は調整文化が日本の強さでしたが、今は弱さになってきていると言えるでしょう。残念ながら、その問題意識が日本で共有されているわけではないから変わりづらいのです。そこから閉塞感やあきらめ感が生まれています。不満はあってもそれによって困っているわけではない、ということがさらに解決に向かわない原因になっていると考えます。


問2:「挑戦文化」という言葉の概念は何でしょうか?

調整文化はタテマエの文化で、挑戦文化は事実実態、現地現物に即した文化です。挑戦文化の中で問われる姿勢として「当事者であるか評論家であるか」というものがあります。例えば、自分の会社の社長に対して、「社長はこうあるべき」というイメージから引き算して「あそこが足りない」と文句を言うのは評論家の姿勢です。当事者の姿勢とは、自らの目標に向かいながら「社長は社長にしかできない、これをやって欲しい」という健全な批判をすることです。問題意識の強い人でも評論家になっているケースは非常に多いと思います。


問3:「挑戦文化」と「挑戦というスローガン」を掲げることの違いは何ですか?

調整文化の真っ只中で「挑戦」というスローガンを掲げてもただのタテマエになります。調整文化はタテマエで挑戦文化は事実実態に即すので、当事者の姿勢で考えて挑戦する人が多いという事実実態があれば、挑戦文化といえるでしょう。
大企業で挑戦文化があるケースはレアです。トヨタの現場は現地現物を大切にするので挑戦文化ですが、本社は非常に調整文化が強いように感じます。そういう意味では挑戦文化と調整文化がバランスをとりながらお互いに拮抗していることにトヨタの強さがあるのかもしれません。調整文化が強くなってきたところに豊田章男さんが社長になり、現場の挑戦文化を再度大事にする姿勢を強めたからこそ、今さらに登り調子になっているように見えます。


問4:「調整文化」と「挑戦文化」はどのような関係性で捉えたらよいのですか?

日本人が調整文化の中で築いてきた規律正しさ、真面目さをうまく活かしながら挑戦文化をつくり上げることができたら日本は強くなります。オリンピックの団体競技では一人一人は外国の選手のほうが強くてもチームになると日本のほうが強いケースがあるのは、日本人の共感力が活かされているからだと思います。お互いに呼吸を読み合って連携しているからです。挑戦文化の中で、事実実態に即しつつも日本人的な共感力に基づく連携を強化していくことが非常に大事だと考えます。


問5:2つの文化の関係性を構造的に捉えることで見えてくるものは何ですか?

「構造的に捉える」とは、キーコンセプトを選び出し、そのキーコンセプト間の相互関係を明らかにすることです。例えば「わが社は良い調整文化の土台の上に挑戦文化の花を咲かせるんだ」という構造を指し示し、「そのために人事制度、評価制度をこう変えます」と伝えるのも良いと思います。


問6:「挑戦文化」を強化することにどういう意味があるのですか?

調整文化の中では、人は部品として機能すれば良いのです。そこで働く人は夢や志、自分のやりたいことを持つ必要は特にありません。あくまでも自分に与えられた役割を全うする部品にすぎないのです。挑戦文化は人一人が夢や志を持って仕事をするということです。挑戦文化は面倒でごちゃごちゃするので、高いマネジメント力が求められます。挑戦文化を強化するということにはリスクが伴いますが、働いている人たちが夢や志を持った人生に変わります。そのためには一人一人が自分自身を信頼できないといけません。それはつまり、自分自身の強みを生かすことです。マイナス面を見るのではなく強みを発見して活用していくことが挑戦文化には非常に大事なのです。
ちなみに夢や志を持てる社会というのは人類の歴史上、ごくごく最近のことです。少し前まではそれはごく一部の人に限られていましたが、今は誰にでもチャンスがあります。しかし、そのチャンスを意識していないし、夢や志を持たずに生きている人が残念ながら圧倒的に多く、環境が生かせていないのです。


問7:挑戦文化を強化するには何を実践したらよいでしょうか?

調整文化では思考停止になりやすいと考えます。挑戦文化は考えることを前提にしていますが、ここで言う「考える」とは検索すれば簡単に答えが出るようなことに向き合うのではなく、簡単には答えが出ない問いに向き合うことです。例えば「なぜ、働いているのか」という問いです。こういう問いと常に向き合っている人と全く向き合っていない人では考える力が大きく違います。調整文化では考える力はあまり要求されないのですが、人間にとってそれは決定的に重要な力です。これを一人ではなく仲間と考えることが大事で、オフサイトミーティングはそのための手段です。答えの簡単に出ない問いをみんなで一緒に考える習慣をつくるためのものなのです。それによって仲間同士の信頼関係や連携がどんどん増えてきます。それが挑戦文化です。

アンケートにお寄せ頂いた声(一部)

  • 今回のセッションを拝聴したことでオフサイトミーティングの意義の振り返り、また今後の進め方の参考にとてもなりました。今を俯瞰してみることができました。
  • 調整文化からなかなか抜け出せないでいる状況の中で、挑戦文化に取り組む「当事者とは変わることを「あきらめていない人」」、「志に向かうために壁を破るには「自分の強み」を問い直す」など変化を進めてゆくための多くの示唆を頂くことができた。
  • 今回参加したセッションの中で、私がメモをとった量はダントツに一番でした。先日「挑戦文化を育てるセミナー」にも参加させていただきましたが、それでもまだ学ぶことだらけであることがわかります。