コミュニティバンクの取組

コロナ禍でお客様を一社も潰さない覚悟と挑戦

第一勧業信用組合は、東京都内一円を営業地域としながらも、全国の金融機関や自治体と連携し東京の消費者との仲介など、幅広い活動を展開。2013年には、日本で最初に一番SGDs宣言、2018年には日本で唯一のGABV※加盟組織となった。(※GABV:リーマンショックの反省から2009年に設立された、「利益」よりも持続可能な社会や環境の維持という「価値」に重きを置く金融機関のネットワーク。6原則に沿った厳しい審査とコミットメントが求められる)2020年3月コロナ危機、中小企業を本気で支え続ける、新田会長と職員の姿が目に浮かぶお話を聞かせていただきました。心に残った言葉は芯のとおった言葉の数々です。

第一勧業信用組合

会長 新田 信行

●「これまでにさまざまな取組みをしてきたおかげで、コロナ危機にあっても、ぶれずに取組めている」

新田さんは、みずほ銀行専務を経て2013年に第一勧信の理事長に着任し、「コミュニティバンクの存在意義は、関係性資本にある。『人とコミュニティの金融』、『育てる金融』、『志の連携』との理念づくりから始めた。SDGsを決してお題目にせず、「東京に一直集中してしまったお金を地方に循環したい」との思いで、職員とともに、地域密着で中小企業を支援。

「お祭りに出る、集金する、心のつながりをもつこと」と、時代の変化と自分たちの使命をいつも考えながら、ネットでできないこと、他の金融機関がやれていないことをやってきた。「巣鴨のお地蔵さまローン」「銀座のバー・ローン」「亀有商店街ローン」など、あなたのための商品がありますよ、とどこまでも具体的に。

一方、このような組合を持続するには、「カルチャー」が必須、と新田さんは言う。職員一人ひとりが夢を持って、能力スキルをもって成長していくこと。人との関係性を深める力をつけること。この2つがないとこの「カルチャー」を育てることはできない。


●「VUCAの状況が続き、コロナ危機前のこの7年間はずっと有事だった」

順調な時は一度もなかった。リーマンショック後の金融危機後、着任した7年前から、ずっとVUCAのなかで、自分の立ち位置も見えなくなっていた。

そんななかでGABVの「ロングタイム・レジリエンシー」という考え方に出会ったとき、私たちのやってきたことの意味が、世界とつながった。私たちがやってきたこととピーター・ブロムさんの考え方は一致しているじゃないか!という発見だ。

世界のメガバンクが衰えるなか、VbB(価値をベースにした金融)をやっているところは業容を伸ばしている。これがあればVUCAの時代も生き残れる!と感じた。自分たちがやってきたこの考え方に自信をもった。


●「近くにいるから力になれる」・・・コミュニティバンクだからこそ

2020年、世界同時にきわめて深刻かつ広範に実体経済を直撃したコロナ危機にあって、私たち第一勧信は「コロナなかりせば、倒れない先は一社たりとも倒さない」を旨に、3月から一斉に経営者一人ひとりを訪ねて激励した。助成金など公的支援が届く前にまずやれることをなんでもやった。飲食店は、3月4月は、年度末のイベント、パーティがばたばたとキャンセルに。たとえば、取引先にはキャンセルではなく「延期」として扱い代金を前払い、店頭ロビーを使って商品展示と販売、くじ付き定期預金、クラウドファンディングで商品紹介、など。職員総出でアイデアを出し合った。そして、資金繰り、本業支援、新たなビジネスモデルへと段階的に支援を進める。


●「新田さん、早く戻らないかね?」「戻りません。むしろ急速に時間軸が進みます」

中小企業の社長さんには現実を直視してもらい、今こそ「どのように儲けるか?」ではなく、「あなたの会社は何にためにあるのですか?」と真価を問う。

既に環境は激変しており、モノ余りで人が足りない。本物しか残らない。中小企業は小回りがきく。経営者としてはむしろチャンス。デジタル化で広くつながっていく一方で、アナログな人と人の深いつながりが重要性を増す。会社の存在意義の答えは、このあたりにヒントがあるかもしれないと思った。若い人には未来をみんなと一緒になって切り拓いていく力がある。時代についていけない人は、経営者をやめたほうがいい。


●コロナの今だからこそ、SDGsだ

東京の小さな信用組合だが、職員は日本地図・世界地図を見て仕事している。目の前の人だけをみて単なる格付けをしていたら、こうはならなかっただろう。分断の先に未来は見えない。自分の地域だけよくなる、いい思いをする、ということは、今の世界でありえない。「コロナだからSDGsどころでない」という人がいらっしゃるが、それは全く逆だと思います。


●新たなつながりで新たなチャレンジを

第一勧信は、大局観のなかで、「自分たちの価値ってなんだろう」と考えてきた。未来志向で新たなつながりを見出していこう。リーマン以降、職員とお客様とずっと取り組んできたから、今、みんなで力強く動くことができた。

「この7年がなかったら、このコロナ危機でとどめをさされたかもしれない」と心底思う。あとで振り返ったときに、「コロナを契機として、日本は変わるチャンスを得られた」と言えたらいいな、と考えている。


◎新田さんの講演からもらったヒント

「つながりを想像する」

世界中で分断が問題となり、つながりが切実になっている今。

目の前にあるものの価値を考えるときに、既にある名前で呼んで片付けるのはやめよう。誰のためのものなんだろう?本当にその人の役にたっているのか?逆に犠牲になっているのは誰だろうか?どうつながっているのだろうか?視野を遮断することなく、想像たくましくしたい。第一勧信の仲間メンバーになったかのように。


「価値を大切にする金融」

今は、まだ少数派かもしれない。でも、時代が必要としているのは確かだから、勢いは衰えないだろう。持続可能な経済・社会・環境の発展の実現を使命とした「バリュー・ベースド・バンキング(価値を大切にする金融)」の実践を増やすために、あなたが銀行員、金融関係者であれば、JPBV(一般社団法人 価値を大切にする金融実践者の会)にアクセスしてください。新田信行さんの著書もどうぞ。「よみがえる金融」(ダイヤモンド社2017年)


コロナ一過ではない

トップと職員の試行錯誤7年、SDGs、地域密着、コロナ危機で経営者を救った成功譚ではない。新田さんは「やり続けている」と何度も言う。地球環境悪化、格差社会、自然災害大国の日本に生きる私たちが現実にどう取り組むか。重苦しくなく大事な話をしてくれました。ありがとうございました。

アンケートにお寄せ頂いた声(一部)

  • 危機感を経営者が持つことの重要性・必要性は普遍化して然るべきであるが、事実はそうなっていないギャップを再認識できた。
  • しなやかさが求められるとは非常に示唆に富むことばで、参考になったこと。